JOURNAL

2026年版 水難事故防止アドバイス

今年もこの季節がやってきた

水難事故防止の記事を書き始めて、もう何年になるだろうと思う。

毎年同じ時期に書いて、毎年同じように公開して、それでも毎年同じように事故は起きる。だから続けている。読んでくれた誰かの、何かの判断のきっかけになればと思いながら。

子どもは静かに溺れる

まず、毎年お伝えしていること。知っている方も、改めて。

子供は静かに溺れます[※1]。本能的溺水反応[※2]と言います。子供は“水深5cmで溺死”することもあります。数秒で。

ライフジャケットは浮いて遊ぶ遊具ではありません(2021年版参照!)。着ていても岩に挟まったり、引き込まれたら浮き上がれません。救命講習是非受けてください。

東京防災救急協会
日本赤十字社

大切なので最初に、そして毎年繰り返して言いたいと思います。恒例の水難事故防止投稿です。

目を離したほんの数秒で起きる。気づいたときには、もう水の中にいる。だから「見ていれば大丈夫」ではなく、「目を離さない」が前提になる。スマホをしまって、一緒にいてください。それだけで、防げる事故がある。

今年の傾向をひとつだけ

統計の話を細かく並べるより、今年気になっていることをひとつだけ。

2026年、水難事故のニュースが例年より早い時期から目立ちはじめている。沖縄では例年以上のペースで遭難が報告されていて、本州でも梅雨前から川や池での事故が続いた。

そして毎年気になっていること。事故に遭う人の中に、中学生くらいの男の子が多い。

なぜだろう、と思う。泳げないわけじゃない。危ないと知らないわけでもない。それでも、事故は起きる。今年はそこを少し考えてみたい。

「去年も来たし、大丈夫だろう」

夏になると、人は去年の夏を思い出す。

あの川、楽しかった。あそこの淵、飛び込んだ。流れもそんなに強くなかった。去年も来たし、今年も大丈夫だろう。

その判断、少しだけ待ってほしい。

去年のあなたと、今年のあなたは同じだろうか。体調は、睡眠は、前日に何を食べたか。去年のその川と、今年のその川は同じだろうか。先週の雨量は、上流の状態は、水温は。一緒にいる人は、その日の気温は。

「同じ川に来た」ことと、「同じ条件で川に入る」ことは、まったく別の話です。

でも人は、場所が同じなら条件も似ているだろうと、どこかで思ってしまう。去年と同じ道を通ったら、去年と同じ景色が広がっていた。そういう経験が積み重なっているから、場所への記憶が「安全の記憶」に変換されやすい。

これが、経験の持つやっかいな側面です。

経験は、安全の保証ではない

料理が得意な人が、キャンプで火を起こせるとは限らない。

都市のコンクリートで自転車に乗れる人が、砂利道や泥道でも同じように走れるわけではない。スキーができる人が、初めてスノーボードに乗ってもうまくいかないように。「似ている」と「同じ」は違う。

水もそうです。

プールで1000メートル泳げる人が、流れのある川で同じように泳げるかというと、そうではない。プールには流れがなく、底が見えて、コースロープがあって、監視員がいる。川には流れがあり、底が見えず、岩があり、水温が低く、誰も助けに来ない。

「泳げる」という経験は、プールという条件の中での経験です。

経験があることと、その経験が今の状況に通用することは、別のことです。経験は「できる」の証明ではなく、「ある条件のもとでできた」という記録にすぎない。

それを忘れたとき、経験は慢心になります。

うまい人ほど、差に気づいている

ダイビングを長くやっている人ほど、「今日はやめる」と言える。

波の高さ、透明度、流れの向き、自分のコンディション。それらが少しでも基準を外れたとき、迷わず引き返す。それは臆病なのではなく、何度も海に入ってきた人が持っている「差を読む目」です。

経験が増えるほど、「去年と今年の違い」が見えるようになる。初心者が気づかない小さな変化に気づけるようになる。それが本当の意味での「経験値」だと思っています。

逆に言えば、経験が浅いうちは差が見えにくい。

川に数回入った記憶しかない人には、その数回がすべての基準になる。「こんなもんだろう」という感覚が、実は偏ったサンプルから作られている。そこに慢心が生まれやすい。

経験は積み上げるものではなく、差を知るために使うもの。

そう考えると、経験の意味が少し変わってくる気がしています。


なぜか男子に多く、なぜか中学生に多い

話を戻す。

水難事故の被害者に、なぜ男性が多いのか。なぜ中学生くらいの年齢が目立つのか。

ひとつ思うのは、「引き返せない空気」の話です。

友達と川に来た。「深そうだな」と思った。でも、誰かが先に飛び込んだ。みんなが見ている。ここで「やっぱりやめとく」と言えるか。

言える子もいる。言えない子も、たくさんいる。

中学生くらいの年齢は、仲間の目がとても大きく見える時期です。自分がどう見られているかが、判断の軸に入り込んでくる。「去年もやったし」という経験の記憶と、「ここで引けない」という空気が重なると、「大丈夫だろう」という結論が出やすくなる。

これは根性が足りないとか、親の教育がどうとか、そういう話ではない。その年齢の、その場の空気の中では、それが自然な判断として出てくる。

だから大人が、その判断の手前に関わることが重要だと思っています。

「今日の川、どう見える?」と一言聞くだけでいい。

判断を代わりにするのではなく、判断する前に少し立ち止まる時間を作ること。


総評

水辺の事故は、知識がないから起きるとは限りません。
知っていても、経験があっても、起きるときは起きる。

去年大丈夫だったから、今年も大丈夫。
泳いだことがあるから、なんとかなる。
みんないるから、誰かが気づいてくれる。

そういう判断が重なったとき、事故は静かに近づいてきます。

経験は、自信の根拠ではなく、差を知るための素材だと思っています。去年大丈夫だったことは、去年の条件が揃っていたから大丈夫だった、かもしれない。同じ場所でも、同じ川はない。同じ海も、同じ池もない。そう考えると、「経験がある」ことは「慎重になれる」ことと同義になっていくはずです。

今日の川は、去年の川ではない。今日のあなたは、去年のあなたではない。
その「違い」を見ようとすることが、経験を本当の意味で活かすことだと思っています。

装備があるから安全なのではなく、装備の使い方と限界を知っていること。経験があるから大丈夫なのではなく、経験をもとに今日の状況を読めること。安全は、誰かが保証してくれるものではなく、自分自身、あるいは保護者が判断し続けるものです。

楽しい水の時間は、その判断の上に成り立っています。

以下は毎年参考になりますので是非御覧ください。

  • 水難事故2025[※3]
  • 水辺の事故の現状と分析[※4]
  • 水の事故を防ごう!海や川でレジャーを楽しむために知っておきたい安全対策[※5]

出来事は一瞬、後悔は一生

毎年この言葉で締めている。

今年も変わらず、これを書く。

水の事故は、ほんの数秒で起きます。「まずい」と思ってから、取り返しのつかない状況になるまでの時間が、信じられないほど短い。だから「やばくなったら引き返そう」が機能しない場面がある。

引き返す判断は、水に入る前にするものです。

問いと選択肢

問い

  • 今日の川は、去年と何が違うだろうか
  • 「大丈夫」の根拠は、記憶か、それとも今日の状況か
  • 引き返す判断を、水に入る前にできているか

選択肢

  • 現地に着いたら、水に入る前に5分だけ観察してみる
  • 「去年と違う」と感じたことを、声に出して共有してみる
  • 子どもと一緒に「今日のルール」を決めてから遊ぶ

参考文献・出典・注釈

  1. 項目名
    子供は静かに溺れます
    発行元
    日本小児科学会
  2. 項目名
    本能的溺水反応
    発行元
    教えて!ドクター
  3. 項目名
    水難事故2025
    発行元
    河川財団
  4. 項目名
    水辺の事故の現状と分析
    発行元
    日本財団
  5. 項目名
    水の事故を防ごう!海や川でレジャーを楽しむために知っておきたい安全対策
    発行元
    政府広報
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